2020年5月アーカイブ

アレキサンダー・ラモント - 素材のストーリー /
シャグリーン、パーチメント、ブロンズ


アール・デコの室内装飾に好まれた素材を扱うアレキサンダー・ラモント。その素材やヒストリーに焦点を当てお伝えしますブログの第3回目です。今回の三つの素材はシャグリーン、パーチメント、ブロンズです。ブロンズ以外は聞き慣れないかもしれませんが、最初にご案内するシャグリーンは、お財布や時計のバンドとして使用される素材でもあります。


1.シャグリーン
20世紀初頭のフランスのデザイナーを魅了した装飾素材の一つがシャグリーンです。アレキサンダー・ラモントの素材のご説明をする時にも、まずはこの素材からスタートする重要な素材で、家具・照明・装飾小物・壁面の表面素材として使用します。無数の細かい粒子により美しく反射する質感を持つこの素材は、英語で「シャグリーン(shagreen)」、フランス語で「ガルーシャ(galuchat)」と呼ばれるエイ皮のことを言います。


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シャグリーンのスキン


実はこのシャグリーン、日本でも歴史的に長く使用されてきた素材です。東南アジアで捕獲されるエイの食用にならない皮部分の最大の輸出先はかつてより日本でした。武士たちが甲冑や刀の柄、印籠などを装飾する素材として使用してきた歴史があり、剣刀で言うと1000年以上まで歴史は遡ります。また、上等でキメの細かいワサビのおろし金として使用される素材というと馴染みがあるのではないでしょうか。シャグリーンのスキンに見られる粒子は象牙や歯と同じカルシウムで、この硬い表面を削る加工には非常に高度な技術が必要です。そのためオーストリッチやクロコダイルと比較される高価な素材として扱われます。


削り方により光沢の出方や質感が変わるのがこの素材の特徴です。私が徳川美術館で見た徳川家の刀の柄には実にたくさんのシャグリーンが使われていましたが、どれもゴツゴツとした迫力ある粒子でした。現在ラモントが家具などに使用する滑らかな手触りではありません。滑り止めとしても使用する刀には隆起した質感が良いのかもしれません。ラモントでは、この素材の艶とパターンがもっとも美しく現れるところまで力を入れて磨きあげ、仕上げていきます。初めてシャグリーンの工房へ行った時に、「作り方の一番の秘密」と言って図解してもらったのは、シャグリーンの美しさが際立つ境がスキンのどこにあるかという説明でした。削りはそこで止めるそうです。シャグリーンの美しさがラモント社の技術と感性から出来上がってきているということがわかります。


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Tourbillon table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ センターテーブル / 素材:シャグリーン、漆、ブロンズ


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海外住宅事例:造作家具のスライディングパネルにシャグリーンを使用。


アレキサンダー・ラモントでは、ルーブル宮にあるパリ装飾芸術美術館においてアール・デコの装飾品の修復を手掛け、シャグリーンについての書籍も執筆するジャン・ペルフェッティーニ氏を美術館から紹介されたことにより、シャグリーンを自社工場で作り始めました。今では代表的素材と成長したシャグリーンですが、商品には環境にも優しいなめしていないエイ皮のみを使用します。そのスキンは強度がより強く、出来上がりが精巧で優しい手触りを持ち、無数の粒子の自然なトーンがとても美しい質感を持っています。それは時間が経つほどに透明感を増し、経年の変化により質感が楽しめる素材です。


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Chop Boxes by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / ボックス(別注) / 素材:シャグリーン、金箔


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Pavé Tables by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / 素材:シャグリーン、卵殻、真鍮
ブログ第2回目でふれた卵殻技法とシャグリーンをテーブルトップに使用




2.パーチメント
アレキサンダー・ラモントで扱うもう一つの"皮"素材が「パーチメント」です。「羊皮紙」というとお分かりいただける、古代から文学や文書の筆写に使われてきた紙に代わる素材です。中世の時代の貴族の時祷書など、顔料や金で美しく彩飾された写本をヨーロッパの美術館でご覧になった方も多いでしょう。20世紀初頭のモダニズムの時代においては、インテリアデザイナー達がニュートラルでありながらラグジュアリーな質感を兼ね備える素材を求めたときに人気があり、椅子やキャビネットに張り込んだり、壁パネルとして多く使用されました。


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アレキサンダー・ラモント / 別注品スツール


パーチメントは、牛皮・羊皮・ヤギ皮を使用した薄い素材です。伸縮性があり、加工段階で削りや磨きをかけ、テンションをかけながら乾燥させることで硬く半透明なスキンとなります。染めと木の基材への張り込みには熟練の技が必要とされます。皮が反って剥がれないような工夫をしたり、曲面に張る時には弾力を調整したり、自然の持つ素材の特性と対話しながら加工を進めていきます。そして出来上がったアイテムには、控えめながら上質で温かな質感があります。


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Largo Coffee Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / センターテーブル / 素材:パーチメント、ブロンズ


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Mighty Table | Suji Parchment by Alexander Lamont
絞りのテクニックで染められたアレキサンダー・ラモントの素材


この素材は家具の世界で最近注目度が高くなっているように思います。つい最近も、アントニオ・チッテリオがデザインするパーチメント素材のキャビネットがMAXALTOから発売されていたのをB&B Italiaで拝見しました。アレキサンダー・ラモントでもここ3年間でのパーチメント商材は増えており、1年半前にオープンしたバンコクのフラッグシップショップでは、大々的にパーチメントのイベントを開催しました。その際に羊皮紙を専門とする八木健治氏(羊皮紙工房主宰)をバンコクに招待し、羊皮紙についてのレクチャーをお願いしたとのこと。せっかく日本人である八木氏ですから、羊皮紙とは何かを深掘りできる同様のイベントを、ぜひ日本でも企画したいと考えています。




3.ブロンズ
アール・デコの特徴的な素材ではありませんが、家具の脚や取っ手、ヒンジなどの金物から、装飾の小物までに使用されるラモントで重要な素材の一つが「ブロンズ」です。強度があり、色や形を作るという観点でデザインに自由度のある「ブロンズ」は、造形的素材としてヨーロッパ、アフリカ、アジアのデコラティブ・アートの世界で昔から使われてきました。使用される「ロスト・ワックス・ブロンズ製法」は遡ると6000年前に起源を見ることができ、タイにも関連性がある素材です。というのも仏教徒が大半を占めるタイでは仏像を作るために伝統的にブロンズの技術が受け継がれてきているからです。ラモントでは、アレックスが熟練の技術を持つ仏像の鋳物師とチェンマイで出会って以来、この製法による造形を長年にわたり作り続けてきました。


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Fan Ottoman by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / ラウンドスツール / 素材: ブロンズ、テキスタイル


ロスト・ワックス鋳造の製作では、まず作りたいブロンズそのものの造形モデルをろうで製作します。造形モデルは自由に作って良いので様々な表現が実現できます。モデルが出来上がったらその上を砂や石膏で覆い被し、乾燥させ、熱を加えます。ろうでできたモデルは溶け、菅を通って外に出て行き、中に造形モデルの形の空洞を残します。この時、ろうがなくなるのでロスト(lost)と言います。次に溶解したブロンズを空洞に流し込み、空洞がブロンズで完全に満たされた後に砂は壊され、鋳物ができあがります。さらに磨きや質感の調整、色付けのフィニッシュ工程を加えブロンズの完成です。


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Amaranth Lamp Table | Cracked lacquer by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / サイトテーブル / ブロンズ(脚)、ジェッソ&漆(テーブルトップ)
↑画像をクリックするとAmaranth Lamp Tableの製造方法(ブロンズ)のイメージ動画を見ることができます。動画で製作されているテーブルトップはシャグリーン+金箔です。


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Lost Leaf Vessel by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / 装飾小物 / ブロンズ
ブロンズは、さまざまな質感の表現ができます。


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Hammered Bowl
アレキサンダー・ラモント / 装飾小物 / ブロンズ、金箔
ユネスコの「クラフトエクセレンス」受賞アイテム


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Star & Starlet Vessel by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / 装飾小物 / ブロンズ


ブログの第2回、第3回では、アレキサンダー・ラモントが扱う中心的素材について書かせていただきました。このブランドを扱いはじめてから、「アール・デコ」は日本でとても人気があるのに、その時代の室内装飾デザインや素材についての情報は日本でとても限られていると感じるようになりました。もちろん、アイリーン・グレイはとても人気がありますし、庭園美術館の建築様式がアール・デコの影響を受けていることは誰もが知っていますが、まだまだある奥深いトピックスをラモントを通じてお伝えしていきたいと思っています。次回の最終回では、20周年を迎えたアレキサンダー・ラモントの新作「SIRENA」についてです。


アレキサンダー・ラモント 代理店
エルクリエーション株式会社 代表 高田真由美




アレキサンダー・ラモント ウェブサイト(英語)
http://www.alexanderlamont.com


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アレキサンダー・ラモント - 素材のストーリー /
ストロー・マルケタリー、漆、ジェッソ


フレンチ・アール・デコの影響を受ける「アレキサンダー・ラモント 」ですが、その最大の特徴は、1920-30年代の室内装飾で使用された素材にあります。工場はバンコクに近いバングスエというところにあり、ここで100名ほどの職人が手作業で家具、照明、装飾小物、パネル材の制作をしています。中でも最も広いスペースを取って製作されているのはストロー・マルケタリーという技法の素材です。今回はこのストロー・マルケタリーに加え、漆、ジェッソについてのストーリーをお伝えします。


1.ストロー・マルケタリー
ストロー・マルケタリーは、ライ麦の寄せ木細工のことを言います。アシやヨシと同じで中が空洞になった茎を持っており、これを縦にカットして切り開き、リボン状になったライ麦を染め、デザインに応じてベースの素材に張り込んでいきます。


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フランスからラモントの工場へ輸入されたストロー(ライ麦)の茎


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正確に測り丁寧にカットしたライ麦をはめ込んでいきます


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2019年にオープンしたマンダリン・オリエンタル(ドーハ)で使用された別注製作のストロー・マルケタリー


ストロー・マルケタリーはその起源について17世紀頃から資料が残っています。小箱や建築の装飾材料などとして製作されましたが、非常に凝った作り方のためにその後徐々に作られなくなった歴史を持っています。


このストロー・マルケタリーが"再発見"されたのは、1920年代にジャン・ミッシェル・フランクやアンドレ・グルーが室内装飾の素材として使い出した時からです。当時のモダニストたちが、壁面や家具の質感表現にストロー・マルケタリー技法を使ったことで、この技術が見直されるきっかけとなりました。社長のアレックスが触発されたのはまさに彼らのモダンな使い方です。ゴールド調にも見える自然のライ麦が光を捉えた時の美しい陰影に惹かれ、フランス人の技術者から制作技術を学びタイで職人を育て、今ではラモントの中心的な素材となっています。


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ジャン・ミッシェル・フランクがデザインした室内。本棚の奥と扉にストロー・マルケタリーを使用


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Bronze Seine Box by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ 装飾小物 / 素材:ストロー・マルケタリー


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物件写真:ヨットの内装に納品するために検品中のストロー・マルケタリー。別注サイズ




2.漆
日本伝統工芸でもある「漆」ですが、ラモントにも漆工房があります。1920年代にパリで活躍したジャン・デュナンやアイリーン・グレイといったデザイナーたちが日本人の漆職人菅原精造氏より伝授され制作した漆作品から影響を受け、かつては東洋の骨董品のディーラーであった社長のアレックスが好んで使う素材です。19世紀後半から20世紀初頭にかけては、日本の工芸品がヨーロッパで人気を博した時代ですが、ヨーロッパで日本人の指導により漆製品が作られていたということはあまり知られていません。社長のアレックスから「菅原氏を知っているか?」と聞かれて以来、日本の漆職人さんに聞いてみても、「そういう人がいたのは聞いたことがある」程度しかわかりませんでした。数年前にジャーナリストの熱田充克さんが「パリの漆職人 菅原精造」という書籍を出版したためにやっとわかったのですが、日本の工芸品を製作する工房で働くためにパリへ渡った菅原氏が、その後アイリーン・グレイと出会い共同で漆作品を制作していたこと、金工デザイナーとして著名なジャン・デュナンへ漆を教えたとのことでした。日本人にほとんど知られていなかったこの人物の教えでアール・デコの著名なデザイナーたちが作品を残したというストーリーが実に興味深いところです。


タイの漆製造について言うと、塗りと乾燥を時間をかけて繰り返すことによって強度が増す漆は、湿度・温度において理想的な気候を有しています。アユタヤ朝の時代(1324-1767年)、タイは漆製造の主要な国でしたが、残念ながら現在では自然漆はほとんど生産されていません。ラモントの工房では自然漆を使い製品を作ります。金箔・シャグリーンといった異なる素材との組み合わせを得意としており、工房で出来上がった製品は、ヨーロッパと日本のクラフツマンシップが非常にうまく融合した独自の表現にも見えます。


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工房で使用される漆の道具と見本サンプル。様々な素材の組み合わせを研究している


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アレキサンダー・ラモント / 別注品のボックス / 素材:シャグリーン、漆
次回のブログでご説明するシャグリーン(エイ皮)に朱赤の漆を7層塗り重ねたボックス


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Ovum Spot Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / 素材:卵殻、漆、ブロンズ


英語でエッグシェルと呼ぶ「卵殻漆塗り」は、卵の殻を割って木地に置き、平滑になるまで何層にも漆を塗り重ね研ぎ出していく技法です。漆で白を表現することが難しいので、白い文様を描く時に使われてきた技法で、人間国宝の松田権六や寺井直次など日本の蒔絵の第一人者たちの精緻な工芸品が美術館や骨董店で見ることができます。この技法は、殻を置く配置の技術も必要なので、ラモントの工場でも一部の職人のみが担当します。


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熟練した手技と優れた感性、集中力、忍耐が必要な卵殻の製造工程




3.ジェッソ
最後にご紹介する素材はジェッソです。ジェッソは絵画の下地や建築の模型を作る時に使われる白い石膏です。中世の時代、教会の彫像を飾る顔料や金箔のベース素材として使われたことで知られています。石灰・白顔料・動物性の膠から成る素材で、一般的にはジェッソ自体を最終素材としてはあまり使用しません。アレキサンダー・ラモントではこの象牙のような白い素材の質感が面白いということで、様々な商品に最終素材として使っています。


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Folly Gesso Ceiling Light by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / 照明 / 素材:ジェッソ、真鍮


工房では、ジェッソは原料となる粉と兎膠を混ぜ合わせて手作業で作られます。それに熱を加え何層にも塗り重ね、それぞれの層は磨かれ、完璧に滑らかな素材の層にし、更に様々なハンドフィニッシュを加えて完成させていきます。


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ジェッソの制作風景


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Amaranth Lamp Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ サイドテーブル/ 素材:ジェッソ、ブロンズ
先端の尖った道具でひび割れた様子を描いたテーブルトップ


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Cracked Lacquer gesso by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモントのテーブルや箱物に使用される素材。
布にジェッソを塗りその上に漆を塗った後、ます目状に割り、割った部分を磨き上げる


一つ一つの素材にストーリーがあるのがラモントの特徴ですが、これら複数の素材を一つの工場で作っているところも珍しいと言われています。異なる素材を混ぜる手法もそのために生まれてくるわけです。


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フレンチ・アール・デコの室内装飾に見る稀有な素材


「アレキサンダー・ラモント」は、家具・装飾小物、パネル材を製作する会社です。弊社エルクリエーションが輸入するこの会社のアイテムは、取り扱いを始めるまではその世界観にあまり馴染みがなくて、どう捉えたら良いかわからないような雰囲気を持っていました。私がこのブランドを扱うきっかけになったのは、知り合いのイタリア人を上海に訪ねたときのことです。彼女がマーケティング戦略を担当する会社について「ちょっと意見を聞かせてくれない?」と言って広げたのが、様々な手法によるラモントの小さな素材サンプルでした。竹に似た寄木細工、細かい粒子を持つスキン、それに日本で伝統的に使われる漆や金箔。何かまとまりがないような気もして、ただどれもが存在感があり、意見を言うというよりも「これは何?」という不思議な気持ちでカタログを持ち帰ってきたのが8年前、ちょうど私が会社を立ち上げた年です。


その素材たちが何かという疑問は、アレキサンダー・ラモントの工場を訪れてからはっきりとまとまりを持った形で見えるようになってきました。バンコクの郊外にある工場を訪れた私を満面の笑みで迎えた社長のアレックスは、私を真っ先に彼のスタジオへ連れて行き、壁一面に並ぶ工芸品や素材に関する書籍の中から何冊かの本を引っ張り出しました。「私はこの時代の素材が好きで、当時のデザイナーたちに影響を受けた物作りをしているんだ」と言って目の前に置いたのは、ジャン・ミッシェル・フランクやアンドレ・グルー、ジャン・デュナンといった名前が表紙に書かれた書籍でした。


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世界中の工芸品や素材の書籍で溢れるアレックスのスタジオと新作のデザインをするアレックス


1920-30年代を中心に活躍したこれらの人々は、フレンチ・アール・デコの時代、凝った工芸技術によるマテリアルで室内を装飾したデザイナー達です。アール・ヌーボーの有機的デザインの時代を経て、次の時代に当たるアール・デコにおいて新たに加わった特徴は、より単純化された直線・幾何学を使ったシンプルなフォルムでした。そこで空間をラグジュアリーにするための手法として注目された一つが「素材」です。ジャン・ミッシェル・フランクは、室内の壁にライ麦の寄せ細工であるストロー・マルケタリーやパーチメント(羊皮)といった素材を使用しました。マイカ(雲母)、シャグリーン(エイ皮)などで室内の装飾品をデザインしたことでも知られています。いずれも生産に手間のかかる凝った素材で、当時の富裕層に人気を博しました。


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ジャン・ミッシェル・フランクがデザインした、調香師ジャン=ピエール・ゲランのための室内装飾
壁面にパーチメント(羊皮)を使用、1930年代


フランス語でガルーシャと呼ばれるシャグリーン(エイ皮)は、刀剣の柄や印籠などに使用されてきた日本では古くからある素材です。ミッシェル・フランクに加え、クレモン・ルソーやアンドレ・グルーといった家具デザイナーが硬くて加工が難しいけれど、象牙のような艶を持つシャグリーンを使い高価なテーブルやキャビネットを製作しました。パリ装飾芸術美術館に収蔵されているグルーの作った美しい曲線によるキャビネットは、アレックスが感嘆したという家具の一つです。高い加工技術と機能性、自然のエイ皮の持つ質感とバランスの良いパターンの並べ方を持ったアイテムで、彼の作品は1925年のパリ万国博覧会でも注目されました。グルーはその時代、モダンと古典の感性を上手く融合させる手法を見せたデザイナーとも言われています。


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パリ装飾芸術美術館所蔵
アンドレ・グルーによるシャグリーン製キャビネット、1925年


またこの時代、ジャン・デュナンやアイリーン・グレイは、漆工芸の手法を日本人の漆芸家である菅原精造から学び、東洋が注目された当時のニーズにも応えました。ジャン・デュナンは、客船ノルマンディー号の室内装飾を依頼され、2つの大戦の間の時代に、フランスとアメリカを行き交う豪華な船旅の室内を凝った素材で飾ったことでも知られています。調べるほどにストーリーに溢れる当時の素材こそが、アレックスが影響を受けたマテリアルだったというわけで、そこからインスピレーションを得て作るアレキサンダー・ラモントのコレクションは、素材に最も特徴のあるものとなっています。


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アイリーン・グレーがデザインした漆塗り屏風スクリーン、1922年


時代がモダニズムに動いた1920-30年代のデザインは、現代のヨーロッパでもとても人気があります。その典型的なエッセンスである放射線や直線、幾何学文様、南洋材・ガラス・クローム、エジプト・アジア・アフリカのエキゾチックな要素など、パリに行くと新たに改装したホテルやレストランで多く見られます。パリ左岸のサン=ジェルマン=デ=プレ近辺にはフレンチ・アール・デコの家具を扱うギャラリーがいくつかあり、小さなシンプルなスツールでも当時のオリジナルアイテムだと100万円程度するものもあり、なかなか高値です。誰が買っていくの?と聞くと「インテリアデザイナーが個人の顧客に紹介するために選ぶことが多い」との答えで、商業空間だけではなく現代の住宅にも広く選ばれるスタイルと想像することができます。


アレックスは、この時代の素材についてを特に研究し、独自の感性でコレクションを作っています。アール・デコの時代にはなかった素材ミックスにも挑戦するアレキサンダー・ラモントの素材のストーリーについては、次回からご案内していく予定です。


エルクリエーション株式会社
代表 高田真由美




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The Amaranth Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / サイドテーブル / 素材:ストロー・マルケタリー、ジェッソ、漆


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The Angle Coffee Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ コーヒーテーブル / 素材:シャグリーン、ブロンズ


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Ledge Console Desk by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ ライティングデスク / 素材:シャグリーン、ブロンズ


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Pleiades Vases, limited edition by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ 装飾小物 限定品 / 素材:漆、卵殻


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Fourgere Dining Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / ダイニングテーブル / 素材:金箔・漆・ブロンズ


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Wishbone Side Table by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント/ サイドテーブル / 素材:パーチメント(羊皮)の絞り染め、ブロンズ


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Flamengo Screen by Alexander Lamont
アレキサンダー・ラモント / 屏風スクリーン / 素材:ストロー・マルケタリー




アレキサンダー・ラモント ウェブサイト(英語)
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