第三回│伝統の技と技能の保存
2015.7.26
エクステリア
鈴木光
日本左官業組合連合会
伝統の技と技能の保存
塗り壁は多彩なテクスチャーがあり、たとえば消石灰をバインダーとすれば糊とすさを混入して漆喰になり、骨材を混入すれば砂漆喰になり、その骨材の材質、粒径、加入量を変化させれば様々な砂漆喰ができ、顔料を混入すれば多種な色彩が可能です。
塗られた壁に刷毛、木鏝、発泡スチロール等でテクスチャーを創れば無限大の表情となって壁面に彩りを見せます。セメント、石膏、土とバインダーを変えれば異質の壁面を構成します。ここに左官の醍醐味があり存在価値が見出せます。
これまで、ご紹介してきたとおり、素晴らしい機能と表現力を持つ塗り壁ですが、建築全般に占める左官工事業の完成工事高が占める割合は、概ね1%前後で推移しています。表に示すように塗り壁の担い手である左官職人は、施工現場の減少に伴い減り続けています。それと同時に業とする日左連の組合員も減少しております。塗り壁仕上げは、手作業であり、かつ特殊性を有しますが、効率的な施工により生産性を高め、生産コストを低減させ、コスト競争力をつけていくことが、左官に今後、強く求められていくものと思われます。また反面、左官工事は伝統的な仕上げ工法が多々あり、伝統的建築の保存に貢献する義務もあります。
このような状況下で、昭和戦前の左官工法もすでに継承が危ぶまれる現状にあります。一般に伝統技術の継承は、20年という期間に間隙があると困難になるといわれます。伊勢神宮の遷宮は20年ごとに建て直します。理由として、軸組部材の耐用年数等も考えられますが、一番大きな理由として、人間の技術の伝承は、20年でタイムリミットとすることが古代より経験的に熟知されていたと思われます。伝統ある左官工法は、継承されず途絶えて消滅したら再度の復活が望めないものであります。
これまでみてきたように、左官が創る塗り壁は、健康にも良く、環境に負荷をかけない優しい伝統的工法であることがお判りになったと思います。それにもかかわらず、塗り壁工事は減少し,職人も減少しています。このままでは、伝統ある左官の塗り壁の継承が危うくなります。職人の減少と高齢化は、他県も同様であり、先ずは東京都で技能の継承政策が積極的にできれば、次に他県でも同様に追随すると確信します。では、どのようにすれば技能の保存が可能か。考えられる取組案を提言します。
漆喰塗りを使ってもらうには、その特長をユーザーに知ってもらうことが必要です。現状では、施主が漆喰を知らないし、建築設計を担当する建築士も漆喰をよく知らないことが多いので、漆喰塗りの特長を加味すれば、店舗等の住宅以外にも利用でき、木造建築物でなくても使えることなどを啓発することが必要です。(東左連では事業化しています)
漆喰塗りは古くから一般的に木造建築物の天井と内壁、特に後者に使用されており、鉄筋コンクリート造や鉄骨造、コンクリートブロック造及びALC造の建物でも屋内に漆喰を使うことが可能です。また、抗菌作用や調湿性などの効用から、学校の保健室、幼稚園、保育園、病院や老人保健施設などの内壁や天井に活用できます。
住宅や民間施設で活用してもらうためにも、公共施設で先導的・モデル的に漆喰塗りを取り入れ、都民からその良さを知ってもらうことが重要だと考えます。都の施設における漆喰塗りの使用実績は、近年では文化財・一部公共施設の修復・新築建築工事に限られる傾向にあると思われます。今後、学校・都営住宅等の建築物の内装で、先立ってモデル的に活用を広げてることが必要です。
技能を発揮する機会が施工を通して職人を育成し、技を伝承できるのだと思います。その為、広く左官の塗り壁の活用を促進しなければならないと考えます。
次回の最終回は「各地の左官工法」をご紹介させて頂きます。