第三回│誂える喜び
2018.10.15
インテリア
石黒久美子
Salon de FAVORI
誂える喜び
ロンドンの中心地、リージェントストリートから一本入ったところにあるSavile Row(サヴィル ロウ)という通りには高級服の仕立て屋さんが建ち並びます。「背広」の語源が「サヴィル ロウ」ではないかという説は有名な話です。ひょっとしたらこのコラムを読んでくださっている皆さまの中にも、ロンドンまでスーツを誂えに通われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
女性もお洋服、ジュエリー、靴やバッグなどを、ご自分のお好みで誂えられる方も多いと思います。私も婚約指輪、結婚指輪を自分でデザインし、宝石以外のあれやこれやもオリジナルを作っていただいては、自分のお気に入りを長年愛用しています。勿論、『選ぶ楽しみ』の誘惑とも日々格闘し通しですが(笑)。今回は、そんな『誂える喜び』についてお話しさせていただきます。
誂えることのよさとはなんでしょう?
・自分の好きな素材や色で作ることができる。
・ぴったりと自分のサイズに合ったものを作ることができる。
・自分に必要な機能が組み込める。
・世界に一つのオリジナリティという付加価値。
といったところでしょうか。実はこれら、インテリアに関して同じことが望めるのです。
例えば、弊社で取り扱っております家具4ブランドの商品は、どれも標準仕様がありません。
アームチェアを一脚注文するとしたら、まずモデルを決め、脚やフレームの木部の色と張地を決め、鋲にするのかパイピングにするのか、またその色はどうするのか、座面の高さは丁度よいか…どれもお客様に一つひとつ選んでいただき誂えます。
見た目の観点からお話しすると、フレームと張地の色柄の組み合わせ次第で、可愛らしくもシックにも全く違う姿に仕上げることが可能です。上の三つのチェア、同じモデルの仕様が異なるものです。ね、随分と雰囲気が違いますでしょ?
椅子の張地を選ぶのは、服地を選ぶのと似ているように思います。服地と言えば、ファッション界において高級カシミアとして名高いロロピアーナのウールやリネン、カシミアといった素材のインテリアファブリックがあるのをご存知でしょうか。カーテンは勿論のこと、椅子の張り地やラグ、ひざ掛けなどその用途は様々です。実際に弊社サロンにございますモワソニエのチェアのうち一脚は、ロロピアーナのウール地で張り込んでいます。今年の冬はコートの代わりに心地よい贅沢な張地のチェアを…というのも素敵ですね。
ちなみに、モワソニエのキャビネットは、お客様のご希望通りにペイントを施すことができます。上の写真は過去の制作例です。迫力満点のオリジナリティ。皆様ならどんなペイントになさいますか?
サイズというポイントからお話ししますと、私たちインテリアデザイナーは部屋の構造、動線や使い勝手などを考慮したうえで、ベストな家具のサイズを割り出します。その際、同じテーブルにS/M/L のサイズ展開があったとしても、どれも理想のサイズに当てはまらないということがあります。そんな時にサイズ変更が可能だと、使いやすく美しい空間が作れます。例えばトム フォルクナー社はサイズ調整がとてもフレキシブルで、天板のサイズは勿論のこと、上の写真の様な曲線のデザインの脚でも高さの変更が可能です。身体を委ねるテーブルや椅子は、体格にも大きく関わってきますので、高さもとても重要なポイントなのです。
また、機能的な視点からですと、コンソールテーブルの下段の棚をロボット掃除機が通る高さにして欲しい、というリクエストを承った事例もございます。
ご自身のライフスタイルや動線などを把握して「ここにこれがあったら便利だな」「ここがこんな風に使えたら快適かも」といった、住まい方のカスタマイズができるのも、誂えるからこその喜びですね。
家具一つで、どれほどのクリエイティヴィティとオリジナリティをお楽しみいただけるのかをお伝えできましたら幸いです。
実はこちらの美しい手描きの壁紙も…このお話は次回、壁についてのお話で触れたいと思います。