2015.7.12

エクステリア

鈴木光

日本左官業組合連合会

快適な住空間を創る塗り壁

現代の住宅に用いられる建材には、多くの化学物質が使われ、放散された有害な化学物質が室内の空気を汚染します。さらに、現在の住宅は機密性が高くなり、汚染された空気が留まる傾向にあります。それによりカビ・ダニなどの発生しやすい環境となり、住空間が不適なものと変化します。
2003年のシックハウス対策としての建築基準法の改正は、現代の室内環境汚染がいかに深刻な事態にあるかを証明していると言えるでしょう。今、住宅はもちろんですが、学校・病院・公共施設等の人の集まる場所にこそ空間の環境汚染対策が求められています。

左官の塗り壁とは、セメントや土、消石灰などの結合材に、水、骨材、繊維、顔料などを混ぜ合わせた左官材料を塗って仕上げた壁のことです。主な成分が天然素材であるため健康的で、落ち着きがありながらオリジナリティーあふれる仕上がり感も特徴です。また、漆喰や珪藻土などの吸放湿性を持った材料には、室内の湿度調節をする機能もあり、快適な住空間創りに貢献します。

塗り壁の性能・機能とは、湿度を調整し、結露から発生するカビやダニを防止します。悪臭やホルムアルデヒドなどのVOC(揮発性有機化合物)を吸着する機能があります。静電気が発生せず、ビニルクロスよりもはるかに汚れにくい仕上げです。有害な物質が含まれておらず、廃棄されても環境に優しい素材であります。アルカリ性で、抗菌作用が長期間持続します。漆喰の主原料である消石灰は、鳥インフルエンザや口蹄疫の防疫・消毒に撒かれています。

漆喰は炭酸ガスを吸引して硬まり地球温暖化に貢献します

①漆喰は質量で74㎏を100%炭酸化反応するとして理論上44㎏、気体に換算して22.4㎏のCO2を大気中から吸収し炭酸化します。
反応:Ca(OH)2(水酸化カルシウム)+CO2(二酸化炭素)→CaCO3(炭酸カルシウム)+H2O (水)
化学式量:74㎏+44㎏→100㎏+18㎏

②6畳間(3.6×2.7)m、天井高2.3mとし、平均的開口部を引いて塗面積を35㎡としてます。漆喰を6㎜厚に鏝塗りすると0.21㎏の漆喰が必要となります。100%炭酸化反応するとして理論上質量で気体に換算して32m3のCO2を大気中から吸収、炭酸化します。

③陶磁器タイルはCO2と一切反応しません。むしろ製造時のCO2の放出は無視できません。

漆喰と珪藻土の電子顕微鏡写真:×5000

珪藻土は、珪藻プランクトンの殻が長年にわたって堆積したものです。0.1~0.2ミクロンの細孔を無数に持つ天然の多孔質ガラス体で調湿や断熱といった機能性を発現させます。

有史以前から薬用として使用されてきた塗り壁

消石灰は古くからアルカリ性のために殺菌・防虫向けに利用されてきました。 世界遺産のポン・デュ・ガールは、ローマ時代の水道橋で、最上部の石蓋付き導水路内部は内壁と底が消毒の効果がある漆喰が塗られています。 欧米では、コレラが発生すると漆喰の部屋に病人を隔離していました。アジアの広範囲な地域では、今も街路樹の根元に防虫のために定期的に石灰クリームが塗られています。日本でも、天明9年(1788年)江戸幕府は、青梅で稲虫退治に石灰を用いることを奨励しております。江戸時代の守貞謾稿(近世風俗志)には、井戸周辺を消毒の効果にするため「たたき漆喰」にするとあります。

伊藤菊三郎作「健保時代の左官姿」

図は木工寮の姿をイメージしたもので鏝と羽子板の鏝板を持って、桶の中には漆喰が入っているものと思われます。

塗り壁に使用される漆喰は高い機能性と殺菌効果で古くから重宝され、人々の生活を支えてきました。
来週は、塗り壁の持つ機能性について詳しくお伝えいたします。


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