2016.7.3

エクステリア

志水りえ

モダンリビング 編集長

心地よい居場所④ 名作建築に見る愛着のもてる住宅

何度か訪れたことがある京都・山崎にある名作住宅「聴竹居」(1928年)は、今年で築88年になります。去年の11月と今年の2月に再び撮影で伺う機会がありました。この住宅は建築家・藤井厚二さんによる設計。当時、彼はこの土地に広大な敷地を手に入れ、次々と実験住宅をつくったのですが、この「聴竹居」がなんとその5軒目。ほかの住宅はすでに現存していないのが残念ですが、この「聴竹居」はデザイン的にも機能的にも…その両面が優れている建築ということで現在でも注目され、世界中から多くの人々が見学に訪れています。(予約して見学することも可能
http://chochikukyo.com/contact/)

まずは、デザイン面です。藤井さんは視察のためにヨーローパに渡航した経験があり、その当時ヨーロッパのデザインの潮流はアールデコやモダニズムの初期。藤井さんは日本的な空間づくりに西洋のエッセンスをミックス。個室は畳の部屋がメインですが、今でいうLDKは椅子で生活するスタイルにしています。戦前!それはとてもモダンな暮らし方です。

この平屋の建物の延床面積は173㎡。LDKのほかに3つの寝室、調理室、下女室、浴室、子供の勉強室などもあります。内部に入ると、右手に客間、正面にはLDK。客室とLDKは引き戸でつながっていて、家族だけのときはそこを開け放って過ごします。縁側と呼ばれるガラス張りに近いサンルームのような空間も設けてあり、そこはリビングと連続し、内部に自然光を取り入れている効果も。家具もすべて藤井さんがデザイン。マッキントッシュのような時計の横に引き出し式の神棚が設けてあるなど、独自のオリジナリティでミックスされており、その当時その空間はどんなにモダンだったか! (ちなみにル・コルビュジエの「サヴォア邸」は1931年でそれより3年前と考えると感慨深いものがあります)。

この住宅が素晴らしいもうひとつの点は機能面です。その当時日本の住まいは、夏の暑さをどうするか…というのが大きな課題でした。この住宅の立地は小高い丘の頂にあり、サンルームから流れる3つの川が合流する地点を見下ろす素晴らしい場所に建てられています。風が抜ける立地を利用し、サンルームの天井には手動で開閉可能な通気口、リビングから続く小上がりになっている畳の間の下部には、筒状のドカンのようなものが設けられたり、環境を積極的に活用しているのも実験的に試みています。その当時に温度等も実測された資料が今でも残っているそうです。

はるか昔は既製の住宅や家具がなかった時代。どの家もこのように家具までその家族の使い勝手やセンスに合わせた空間をひとつひとつつくっていました。しかし、当時置かれていたリビングの家具は残念ながら現在はありませんでしたので、ML226号(4月発売 21世紀の木の住宅特集)で、リビング、サンルーム、ダイニングに、モダンリビング編集部が家具をコーディネイトしてみたんです。そうしたところ、88年経た空間がいきいきと蘇ったのには驚きました。配置した家具は名作家具やヴィンテージもの、最新のものなどいろいろ。

ダイニングにはデンマーク製の名作家具・セブンチェア、テーブルの上にはフランス製のテーブルウエア、リビングにはカッシーナのソファとデンマークのポール・ケアホルムのチェア、サンルームにはアンティークのテーブルやイタリア製のパーソナルチェアなど――モダンなスタイリングを!そのミックスコーディネイトが映えたのは、建物の建築としての美しさとモダンさ、そして多くの要素を受け止める包容力があるだと思います。時間を経てなお味わいが増す住まいの好例ですよね。
是非「聴竹居」は、訪れていただきたいと思っています。

そして、今年の4月に待望の落水荘(Falling Water)に行くことができましたので、こちらのことも少しお伝えしたいと思います。
建築家、フランクロイド・ライトの代表作のひとつとして知られるFalling Water(落水荘)は、アメリカ・ペンシルバニア州から南東へ約80kmのところにあります。エドガー・カフマンの別荘として1938年に完成。さきほどの聴竹居の10年後であり、サヴォア邸の7年後、今年で完成してから築78年ということになります。今回、雄大な自然の中に埋もれるように佇む建物を目の当たりにした時には本当に感動いたしました。

自然豊かな国立公園の中にある敷地へ入り、川の脇の小径を川音を浴びながら歩き建物までアプローチ。小さな橋を渡ると水平なラインが際立つ外観が突然現れ、アプローチする道の左下に母屋が、右手に離れのようなゲストハウスがあります。玄関に近づき見上げるとまずは格子状のコンクリートの隙間からツタのような緑が目に飛び込みます。内部空間はそこにあった岩がそのまま使われていたり…。その当時で考えれば相当斬新! かつ自然の取り込み方は現地で体感すると驚きが! 床下やテラスの下に流れる滝との距離感も見事。なんといっても滝の真上に家があるんですから!

1階にはキッチンと個室、読書室等、階段で2階へ上がっていくと急に視界が開けるLDK、3階は個室。そして道路の上のブリッジを渡りゲストルームのある離れへ。滝、川音、緑、岩とライトのデザインした家具が置かれた室内――。

こちらも現在住んでいる人はいないのですが、78年経た今も、人々に「感動」と「人間にとって気持ちよさって何だろう?」という素朴な疑問への答えがある気がいたしました。

2つの名作住宅を短い時間に体感した2016年前半。
感動と驚きと、そして何年たっても愛着がもてる住まいってなんだろう! という疑問への答えも、これらの名作住宅にそのヒントが隠れている気がいたします。

4回のブログを通して、自然との気持ちよい距離感、家具の存在、緑や花、香りの大切さ、愛着のもてる空間などについてお伝えしたかったのですが、それらすべてはライフスタイルをハッピーにする要素! 少しでも参考になればと思っております。ありがとうございました。

2016年6月7日発売
モダンリビング
http://www.hearst.co.jp/brands/modernliving