第二回│極める力
2015.10.19
インテリア
野澤隆之
B&B Italia S.p.A.
極める力
第2回目の今回は私のもう一つの顔である船に関するビジネスについて少し書こうと思います。
船には究極のリラックスがあります。
私の考える究極のリラックスは、緊張の後に訪れるリラックスです。船には常に緊張が伴います。危険に対する緊張です。エンジンは大丈夫か? 船体は? 風は? 波は? ゲストは?というようにたくさんの心配があり緊張が伴います。港に入り、もやいロープを取った時に初めて緊張が解けます。そしてのんびりと船で過ごす。そこで感じる安堵が究極のリラックスだと感じられるのは、やはり緊張からの解放という落差なのだと思います。
ずーっと安堵の中にいるリラックスには魅力を感じません。やはり興奮と感動とリラックスが大事なのです。ともすれば、その一瞬かもしれない究極のリラックスを得るために船に乗っているのかもと思える事もあります。
船に乗り海に出る。この行為に至る方々は陸からはみ出すパワーを持っていると常々感じます。私もそうですが、海にはとても魅力的な興奮と感動があります。
私は子供の頃から釣りが好きで、朝早起きをして群馬の川や沼に釣りに行きました。どの石の下に餌を流せば毎週必ず魚がいるとか、自分のフィールドの中での楽しみを広げる面白さがありました。フィールドが海に代わり、海の釣りにも傾倒してゆきました。
海は広い。自分の狙った魚を釣るには、子供の頃からの憧れていた船が必要です。
まだ稼ぎの少なかった頃無理して買った船は、エンジンが壊れていたりしました。自分で修理して、調子の良い時にだけ海に出る事ができるというような、今考えると危ういマリンライフの始まりでした。その時代に船のメンテナンスの基本を学び、船の仕組みを知る事ができました。
海に出ると、船は木の葉のように波や風に翻弄されます。
少しでも大きな船に乗りたいと思うようになるのは自然な流れです。毎日寝る前に船の本を読んで寝るという生活を続けると、買いたい船を買うためには稼がないと買えない、という事が明白になり、本を閉じて仕事に没頭する。そんなモチベーションで頑張った時期を懐かしく思い出します。やがて島に遊びに行ける船を購入して、新島へクルーズしました。
そこで衝撃の出会いがありました。カジキです。釣ったわけではないのですが、新島の港に入ると誰かが釣ったカジキが港に吊るされていました。100キロ位あったでしょうか。あまりの迫力に圧倒されました。こんな怪物が釣れるのか!こんな近くに泳いでいるのか!と興奮した事を覚えています。
「カジキを釣りたい」そう思い始めました。
思うと突然走り出します。思考と行動は常に一致しています。カジキが釣れる船が欲しい。頑張って仕事をします。そしてなんとか船を購入しました。そしていざカジキ釣りへ・・・・しかし当時は今のように情報がありません。約2年間追いかけ回しましたが釣れませんでした。どこでトローリングすれ釣れるのかさえもわからないような状況です。そして大島の友人に乗ってもらい、三宅島で初めてのカジキを釣ったのが3年目のシーズンでした。それからはコツがわかったのか、高確率でカジキを釣る事ができるようになりました。すっかりカジキに夢中になりました。
当時不動産業をしていましたので、1年中暇でした(笑)。準備も十分な時間を使い、時間さえあれば日帰りでも三宅島に通ったりして。開業間もない横浜ベイサイドマリーナでは、一番燃料を使った船にもなりました。そうして深く船を理解して、船の近くに身を置きたい船中心の生活にしたいと短絡的とも言える、船のビジネスの世界に入っていったことは必然であったと感じます。自分が乗りたい船を日本に紹介して、日本に輸入して販売する。世界の名艇と言われるカジキ釣りの船をほとんど輸入し、乗ってみてさらに船に傾倒してゆきました。
Bertram、Hatteras、Garlington、Rybovich、Jimsmithなど、名だたる名艇を輸入しました。日本に初めて入ってきたブランドもたくさんありました。そうして世界のトップブランドを扱うようになり、そのブランドの生い立ちや、建造の哲学を理解して、どのようにブランドが成立して行くのかその過程も追いました。その中で名艇たちの良い点と弱点も知り尽くしてゆきました。
そうして、これより良いものができるのではという気持ちが確信に変わった時に、必然的に世界一の船を目指して独自の船の建造を始めました。
カジキの世界記録を破るための船。レコードブレーカーの意味を込めてBREAKERS(ブレーカーズ)と命名しました。
たくさん造ることはできませんが、自分のセンスと技術の表現の場として造船があると思っています。妥協はしません。世界一を目指していますので、ものを作ろうとする人間と、単なる趣味の人では当然その目線の先にあるものが違います。見る視点が違うという部分が大きいでしょう。何年経験していても目線が違えば世界の名艇を抜くことも、抜こうとも思わないでしょう。
どんな作り込みをしているのか?なんでこれが実現できるのか?なんでこのブランドは人気があるのだろう?どうして伝説のブランドになれたのだろう?様々な疑問に全て明確に私なりの答えが見出せた時に、夢は結実するのだと思います。大いなる挑戦は続いています。物作りは「自分ならこうする」ということを形にして示すこと。その「自分」がなければ物は生まれません。
その自分の引き出しが空っぽだと物も生み出せません。常に自分のセンスを高め、様々な経験から学ぶ事が大事だと思い世界を飛び回ります。そしてスポンジのように吸収します。
異国の文化生活様式、そして違いを理解して行く事が大事です。世界から見た「日本」という視点も物作りにはとても大きな影響を与えます。そして日本から世界へ何が発信できるのか?夢は形にして具現化しないと理解されません。形にできる技術と知識に加えてそこにセンスがなければ、魅力ある物とは当然なりえません。デザインに万能はありません。あくまでもこれは「個」の好みですから(笑)。一部の人にさされば良いと思わないと魅力的なデザインは生まれ得ないし、表に出すことさえ恥ずかしくてできないのではないでしょうか?
船は単に物ですが、この船がもたらす興奮と感動と究極のリラックス。そして友人たちとのそれらの共有は、人生に彩りを与える事のできるラグジュアリーです。
船にはインテリアがあります。
船を作っても、そのデイスプレイ棚に自分のイメージした物と異なる物を置かれたのでは、デザインの完結にはなりません。だから私はオブジェからグラス類、タオルからスリッパまでトータルでコーディネートします。最後に香りのコーディネートもします。
また、どこのケータリングを呼んで、パーティをこのようにして、という段取りも大好きです。物へのこだわりが事を呼び、人を呼び、良きご縁を作り出す。これが物作りのこだわりの結実であると思います。インテリアへの傾倒は必然的にB&B ITALIAを呼び寄せ、再びその業界では素人として次への挑戦を始めるのです。