2014.8.31

オーナーズ

関博子

茶道家 表千家教授

「広がる世界」

茶道を始められると、最初は作法の習得や決まりごとが気になり、なかなかお茶を楽しむ余裕がないと感じる方もいらっしゃると思いますが、お稽古を重ねれば、徐々に考えなくても自然に作法などが身について参ります。その頃になりますと、自分の道具に対しての好みも分かるようになってきます。このお茶碗が好き、この水指が好き、この茶器が好き、その「好き」という気持ちが大切だと思っています。茶道は使用するお道具だけではなく、床に掛けられた掛軸や書、お花、露地など茶室の庭、着物などさまざまな世界に触れることができるのも、茶道の良いところ。始めは見極める力が無いのが当たり前なのですから、まずは自分が好きなものがどんなものなのか、それを知っていくこと。それが、世界が広がる第一歩なのではないでしょうか。

お茶碗と茶器
お花と掛軸

茶道は季節をとても大切にする文化です。寒い時期は畳の一部を切った炉と呼ばれる中に釜を使い、暑い時期には炉を閉め、風炉を使います。また、お道具やお菓子も季節を感じさせるものを用います。お茶碗も夏は涼しさを感じさせ、通常のお茶碗より広口のお茶が冷めやすい平茶碗。冬には逆にお茶が冷めないように、口が狭く深さのある筒茶碗があります。お稽古では毎回違うお道具を使うようにしていますし、同じものでも組み合わせを変えるなどして楽しみます。現代は季節を感じることが少なくなったといわれていますが、四季を重んじる日本人の心を大切にしたいと考えます。季節の変化を巧みに取り入れる茶道と接することで、普段の生活では見落としがちな季節の移り変わりを感じ、愉しめるようになることは、日々の生活にも潤いを与えてくれるはずです。

11月~4月の寒い季節に使う「炉」
5月~10月の暑い季節に使う「風炉」

お花も季節を取り入れる代表ですが、茶道で使うお花は和花です。ただ、和花は手に入りにくく、お花屋さんではなかなか見かけません。ですから、花を自宅の庭などで育てています。茶道では、お花は豪華なものではなく、素朴なものを好みます。花で良く使われるのは、椿です。椿の種類は数千種類以上あると言われており、このことをお話しすると驚かれる方が多いですね。花色や花形、花の大きさもさまざまなものがあります。椿ひとつでも、こんなに世界が広がるのです。茶道をきっかけに、「好き」見つけ、世界を広げてみてはいかがでしょうか。思いも寄らない世界が広がるかも知れません。

ご存知の方も多い「寒椿」
名前は体を現す可憐な「乙女椿」
小さくかわいらしい「白玉」
中国の神話上の女神の名が付いた「西王母」