2015年7月アーカイブ

伝統の技と技能の保存




塗り壁は多彩なテクスチャーがあり、たとえば消石灰をバインダーとすれば糊とすさを混入して漆喰になり、骨材を混入すれば砂漆喰になり、その骨材の材質、粒径、加入量を変化させれば様々な砂漆喰ができ、顔料を混入すれば多種な色彩が可能です。
塗られた壁に刷毛、木鏝、発泡スチロール等でテクスチャーを創れば無限大の表情となって壁面に彩りを見せます。セメント、石膏、土とバインダーを変えれば異質の壁面を構成します。ここに左官の醍醐味があり存在価値が見出せます。




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(クリックすると画像が大きくなります)






これまで、ご紹介してきたとおり、素晴らしい機能と表現力を持つ塗り壁ですが、建築全般に占める左官工事業の完成工事高が占める割合は、概ね1%前後で推移しています。表に示すように塗り壁の担い手である左官職人は、施工現場の減少に伴い減り続けています。それと同時に業とする日左連の組合員も減少しております。塗り壁仕上げは、手作業であり、かつ特殊性を有しますが、効率的な施工により生産性を高め、生産コストを低減させ、コスト競争力をつけていくことが、左官に今後、強く求められていくものと思われます。また反面、左官工事は伝統的な仕上げ工法が多々あり、伝統的建築の保存に貢献する義務もあります。
このような状況下で、昭和戦前の左官工法もすでに継承が危ぶまれる現状にあります。一般に伝統技術の継承は、20年という期間に間隙があると困難になるといわれます。伊勢神宮の遷宮は20年ごとに建て直します。理由として、軸組部材の耐用年数等も考えられますが、一番大きな理由として、人間の技術の伝承は、20年でタイムリミットとすることが古代より経験的に熟知されていたと思われます。伝統ある左官工法は、継承されず途絶えて消滅したら再度の復活が望めないものであります。


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左官人口の推移(クリックすると画像が大きくなります)






これまでみてきたように、左官が創る塗り壁は、健康にも良く、環境に負荷をかけない優しい伝統的工法であることがお判りになったと思います。それにもかかわらず、塗り壁工事は減少し,職人も減少しています。このままでは、伝統ある左官の塗り壁の継承が危うくなります。職人の減少と高齢化は、他県も同様であり、先ずは東京都で技能の継承政策が積極的にできれば、次に他県でも同様に追随すると確信します。では、どのようにすれば技能の保存が可能か。考えられる取組案を提言します。


漆喰塗りを使ってもらうには、その特長をユーザーに知ってもらうことが必要です。現状では、施主が漆喰を知らないし、建築設計を担当する建築士も漆喰をよく知らないことが多いので、漆喰塗りの特長を加味すれば、店舗等の住宅以外にも利用でき、木造建築物でなくても使えることなどを啓発することが必要です。(東左連では事業化しています)
漆喰塗りは古くから一般的に木造建築物の天井と内壁、特に後者に使用されており、鉄筋コンクリート造や鉄骨造、コンクリートブロック造及びALC造の建物でも屋内に漆喰を使うことが可能です。また、抗菌作用や調湿性などの効用から、学校の保健室、幼稚園、保育園、病院や老人保健施設などの内壁や天井に活用できます。
住宅や民間施設で活用してもらうためにも、公共施設で先導的・モデル的に漆喰塗りを取り入れ、都民からその良さを知ってもらうことが重要だと考えます。都の施設における漆喰塗りの使用実績は、近年では文化財・一部公共施設の修復・新築建築工事に限られる傾向にあると思われます。今後、学校・都営住宅等の建築物の内装で、先立ってモデル的に活用を広げてることが必要です。
技能を発揮する機会が施工を通して職人を育成し、技を伝承できるのだと思います。その為、広く左官の塗り壁の活用を促進しなければならないと考えます。


次回の最終回は「各地の左官工法」をご紹介させて頂きます。





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塗り壁の高い機能性




前回の「快適な住空間を創る塗り壁」でも触れましたが、塗り壁は高い機能性を備えています。今回は、その機能性についてお話をさせて頂きます。




塗り壁の抗菌効果
消石灰は高アルカリ性(ph12.7)を示し、接触した微生物の細胞壊死や微生物体内の特定の代謝経路の阻害に働くと言われています。冬期の乾燥空気で、ウイルス等が室内に繁殖するのを抑えるためにも水分・湿分の存在は欠かせなく、壁面の吸湿によってウイルスを抑制させます。そのため冬場の乾燥期間は、加湿器を利用することがより抗菌の効果を高めます。


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貝灰の電子顕微鏡写真:×1500粒子が粗く多孔質な状態。


一般に、アルカリ性物質によるpH抗菌作用は、アルカリ側ではpH12以上が有効とされています。微生物が消石灰や焼成ドロマイトの高アルカリ性(pH12.7)に接触すると、微生物の細胞壊死や微生物体内の代謝経路の阻害になります。
現在、消石灰は消毒剤の一つとして農林水産省令「家畜伝染病予防法」で指定されています。近年の新潟県中越地震や大発生した鳥インフルエンザ、口蹄疫の防疫・消毒では、大量に撒かれている様子がマス・メディア等で報道されてきました。消石灰のこのようなウイルスに対する迅速な有効性はフランスのパスツール研究所によっても実証されています。






塗り壁の調湿効果
古くから漆喰は木材と共に調湿効果があると言われており、多孔性の珪藻土を混ぜれば更に呼吸性の高い塗り壁となります。珪藻土やパーライトは断熱効果も高めることが可能です。下塗りに使用する石膏は寸法安定性が良いことが知られています。






塗り壁の吸放湿性能
下地のプラスターボード9.5㎜は30㌘/㎡の吸放湿性能があります。ところが、9.5㎜のプラスターボードにビニルクロスを張ってしまうと12㌘/㎡に下がってしまいます。7㎜ラスボードに中塗りの石膏を8㎜塗ると51㌘/㎡に増加します。さらに9.5㎜のプラスターボードに3㎜の珪藻土を塗ると74㌘/㎡と大幅に改善します。


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吸放湿のイメージ図


調湿形仕上塗材の多孔質な塗膜により吸放湿性が得られます。
珪藻土などを用いた吸放湿性のある塗材で室内の調湿効果を得られます。結露対策と、カビ・ダニなどアレルギーの原因といわれるハウスダスト対策に効果が期待できます。






塗り壁のホルムアルデヒド吸着低減効果
ホルムアルデヒドの吸着低減効果は、低減率(%)で90.0~73.0%となり、換気効果としての相当換気量では0.94~0.30m3・h/㎡となりました。消石灰と漆喰壁は共に、ホルムアルデヒドの吸着低減効果が確認されています。






塗り壁のメンテナンス
ビニルクロス・有機性建材は静電気による表面の汚れが発生しますが、漆喰等の汚れは、汚れた部分を消しゴム、砂ゴム・細かい紙やすりを用いて、表層を擦り取ることができてメンテナンスが容易です。 ポルトランドセメント系は、硬い表面を持つため表面の汚れを被せるしかありません。 ビニルクロス張りの壁は、経年の汚れ・破損した時に張替えを要します。








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この様に、塗り壁は優れた機能性に加えて、メンテナンスの容易さも長けている、住空間に適した素材です。
次回は、塗り壁の多様な表現と、職人の現状についてご紹介させて頂きたいと思います。





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快適な住空間を創る塗り壁






現代の住宅に用いられる建材には、多くの化学物質が使われ、放散された有害な化学物質が室内の空気を汚染します。さらに、現在の住宅は機密性が高くなり、汚染された空気が留まる傾向にあります。それによりカビ・ダニなどの発生しやすい環境となり、住空間が不適なものと変化します。
2003年のシックハウス対策としての建築基準法の改正は、現代の室内環境汚染がいかに深刻な事態にあるかを証明していると言えるでしょう。今、住宅はもちろんですが、学校・病院・公共施設等の人の集まる場所にこそ空間の環境汚染対策が求められています。




左官の塗り壁とは、セメントや土、消石灰などの結合材に、水、骨材、繊維、顔料などを混ぜ合わせた左官材料を塗って仕上げた壁のことです。主な成分が天然素材であるため健康的で、落ち着きがありながらオリジナリティーあふれる仕上がり感も特徴です。また、漆喰や珪藻土などの吸放湿性を持った材料には、室内の湿度調節をする機能もあり、快適な住空間創りに貢献します。


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塗り壁の性能・機能とは、湿度を調整し、結露から発生するカビやダニを防止します。悪臭やホルムアルデヒドなどのVOC(揮発性有機化合物)を吸着する機能があります。静電気が発生せず、ビニルクロスよりもはるかに汚れにくい仕上げです。有害な物質が含まれておらず、廃棄されても環境に優しい素材であります。アルカリ性で、抗菌作用が長期間持続します。漆喰の主原料である消石灰は、鳥インフルエンザや口蹄疫の防疫・消毒に撒かれています。








漆喰は炭酸ガスを吸引して硬まり地球温暖化に貢献します


①漆喰は質量で74㎏を100%炭酸化反応するとして理論上44㎏、気体に換算して22.4㎏のCO2を大気中から吸収し炭酸化します。
反応:Ca(OH)2(水酸化カルシウム)+CO2(二酸化炭素)→CaCO3(炭酸カルシウム)+H2O (水)
化学式量:74㎏+44㎏→100㎏+18㎏


②6畳間(3.6×2.7)m、天井高2.3mとし、平均的開口部を引いて塗面積を35㎡としてます。漆喰を6㎜厚に鏝塗りすると0.21㎏の漆喰が必要となります。100%炭酸化反応するとして理論上質量で気体に換算して32m3のCO2を大気中から吸収、炭酸化します。


③陶磁器タイルはCO2と一切反応しません。むしろ製造時のCO2の放出は無視できません。


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漆喰と珪藻土の電子顕微鏡写真:×5000
珪藻土は、珪藻プランクトンの殻が長年にわたって堆積したものです。0.1~0.2ミクロンの細孔を無数に持つ天然の多孔質ガラス体で調湿や断熱といった機能性を発現させます。








有史以前から薬用として使用されてきた塗り壁


消石灰は古くからアルカリ性のために殺菌・防虫向けに利用されてきました。 世界遺産のポン・デュ・ガールは、ローマ時代の水道橋で、最上部の石蓋付き導水路内部は内壁と底が消毒の効果がある漆喰が塗られています。 欧米では、コレラが発生すると漆喰の部屋に病人を隔離していました。アジアの広範囲な地域では、今も街路樹の根元に防虫のために定期的に石灰クリームが塗られています。日本でも、天明9年(1788年)江戸幕府は、青梅で稲虫退治に石灰を用いることを奨励しております。江戸時代の守貞謾稿(近世風俗志)には、井戸周辺を消毒の効果にするため「たたき漆喰」にするとあります。


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伊藤菊三郎作「健保時代の左官姿」


図は木工寮の姿をイメージしたもので鏝と羽子板の鏝板を持って、桶の中には漆喰が入っているものと思われます。






塗り壁に使用される漆喰は高い機能性と殺菌効果で古くから重宝され、人々の生活を支えてきました。
来週は、塗り壁の持つ機能性について詳しくお伝えいたします。


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「アーネストコラム洒洒落落」第34回目の連載がはじまります。



アーネストとご縁が繋がった方々が、それぞれの視点で自由にテーマを設定し執筆いただく全4回の連載コラム「洒洒落落」。
次回より第34回の連載を開始いたします。


今回のゲストは、一般社団法人日本左官業組合連合会の理事を務められている、鈴木 光さんです。左官の優れた機能性や歴史、多彩な表現など左官の魅力をご紹介いただきます。





*** プロフィール ***




鈴木 光

 
一級建築士・博士(工学)

 
一般社団法人
日本左官業組合連合会 理事
広報委員長


ものつくり大学 特別客員教授



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【設立目的】
左官工事の技術的進歩改善を図り、左官業の社会的経済的地位の向上発展を期し、もって公共の福祉を増進させることを目的としています。




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