2014.8.24

オーナーズ

関博子

茶道家 表千家教授

「もてなしの心」

400年余り前から伝わる日本の伝統文化の茶道ですが、なかなか、実際に体験したことがない方が多いのではないでしょうか?
茶道と聞くと「なんだか敷居が高そう…」と思われがちですが、実際には色々なお道具に触れ、感じることが大切。また そのしきたりは普段の生活の中にそれぞれの所作として生かされております。畳の上を歩くこと、襖の開け閉め、器を持つ手、他人への気配りなど特別なことではなく毎日の生活の中に茶道はあります。是非 ご興味を持っていただける方は、一度お茶室にいらしてみてください。

お茶を点てているところ。

また、茶道の正式なもてなしは茶事です。そこには、亭主(招いた者)と客の交流の場があります。よく「一期一会」という言葉を用いて表現され、たとえ同じ人々が会する席が他にあったとしても、今日という日は一度限り、その茶事をとおした出会いを大切に致します。亭主と客が一体となり、その時、その空間を共有することを、「一座建立」といい、心の交流を行う場でもあるのです。

見方によっては茶道は、非日常の世界でもあります。露地(茶室の庭)に入ると独特の空間が広がります。「市中の山居」という言葉があるとおり、街中に居ながら山里の風情を味わうことができ、その風情を重んじ、大切にしています。そこでは、鳥の声、葉が風に揺れる音などが聞こえ、松風と言われるお湯を沸かす音など、お点前の所作に耳を傾ける静かな時間が流れます。表千家の茶の湯の象徴とも言われる茶室「不審菴」は、千利休が理想とした山里の草庵を体現した茶室で、千利休のわび茶が凝縮した空間です。茶室に向かう道には、露地口や中潜という小さな戸があり、誰もが頭を下げて通る潜り戸は、茶の湯の世界では皆平等という意味が込められています。

自宅にある茶室の庭
奥に腰掛、手前は蹲(つくばい)。

正式な茶事は初座と後座に分かれ、席入り、懐石、初炭、菓子、中立ちを挟み濃茶へと進み、後炭、薄茶の流れとなります。濃茶は茶事の中心で、客人数分をひとつの茶碗で練ります。一椀を分けあって戴く濃茶は、そこに同じ時間を共有する者の一体感が生まれます。また、ひとり一椀を戴く薄茶は、亭主と客との間で会話が交わされ和やかな雰囲気です。静寂の中、心地よい緊張感が漂う濃茶とは異なり、くつろぎのひと時を楽しみます。亭主がもてなしの心を込める一椀。客は一服を戴きその心を味わいます。凛とした空気と、くつろぎのひと時。異なる雰囲気を味わえるのも茶道の魅力だと思います。

茶事の懐石ではお膳のほかに、お酒も振舞います。

茶道の「もてなし」は、招かれた客のみが受けるものではなく、客と亭主が互いにもてなすものです。亭主は客を迎え入れる準備から始まり 庭の掃除の他、敷石を綺麗に一つ一つ拭きあげ、樹木の葉を一枚ずつ清めていく。最後に打ち水をし、準備が整った頃手掛かりとして戸を少し開けて客をお待ちする。客は亭主の最上のもてなしに応え、招かれたことに対する礼を述べ、時を過ごす。このひと時が互いの共感を高め、心を交わすことができるのです。これこそ「一期一会」「一座建立」ということに繋がっていくのだと私は思います。